認知症の父の遺言書
昨年父が亡くなりましたが、自筆の遺言を残していました。相続人は私と兄の2人です。遺言は、遺産をすべて兄に相続させるという内容でした。
しかし、父と兄は仲違いをしていたので、父がそのような遺言を残すとは考えられません。また、父は認知症が進行していたため、兄が父を騙して遺言を書かせたのではないかと疑っています。遺言のとおりに遺産分割をしなければならないでしょうか?
回答者: 弁護士 川口 智也
■遺言が無効となる場合
遺言がある場合でも、相続人全員で協議をして、遺言と異なる内容で遺産分割をすることができます。しかし、遺言の有効・無効について相続人間で争いがある場合には、通常、遺言の無効を主張する相続人が、遺言無効を確認する調停・裁判を起こす必要があります。
遺言の効力に関しては様々なことが問題となり得ます。例えば、民法は遺言の方式(書き方)を具体的に定めているので、これに反すると遺言が無効となることがあります(民法960条)。遺言を残す方が自ら遺言書を作成する「自筆証書遺言」の場合に特に問題となります(民法968条)。
また、遺言をするには、遺言の作成者(遺言者)がその内容と法的な効果を理解する意思能力(遺言能力)を有していることが必要です。裁判で、遺言者に遺言能力がなかったとして、遺言無効が認められる可能性があります。相談事例のように認知症等の病気により判断能力が低下していた場合に遺言無効が認められることがあります。
■遺留分侵害額請求
一方で、裁判をしても遺言が有効と判断されてしまう可能性もあるので、そのような場合に備えた対応が必要です。
相続人には遺言によっても侵害されない権利(遺留分)があるので、他の相続人等に対して遺留分侵害額請求をすることができます(民法1046条)。相談事例の場合、相談者には遺産全体の4分の1が遺留分として保障されているため、兄に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることになります。
また、遺留分侵害額請求には時効があり、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に請求をする必要があります(民法1048条)。裁判で遺言無効を争っている場合でも同様です。
「遺言書」に関する取扱事件