事件紹介
岸松江弁護士、平井哲史弁護士が担当する不当労働行為救済申立事件で、東京都労働委員会は7月23日、組合側の申立てを全面的に認め団体交渉に応じるよう救済命令を発しました。
本件では、会社は当組合員と「店舗営業契約書」なるものを作成し組合員が独立した事業主であって労働組合法の「労働者」ではないとの理由で一切の団体交渉を拒否したため申立てしていたものです。
東京都労働委員会は、命令の理由で、労組法上の労働者に当たるか否かについて、「雇用契約下にある労務供給者及びこの者と同程度に団体交渉の保護を及ぼす必要性と適切性が認められるか否かにより判断されるべき」とし、その「必要性と適切性」の判断方法について「本件契約の形式及び労働者性に関する当事者の認識如何にかかわらず、客観的に見た労務供給等の実態に即して判断すべきである」と明示しました。
この労働委員会の認定は、最高裁判決が示した判断基準を踏襲しつつ、委任契約や請負契約を偽装して労働者を見かけ上は個人事業主として働かせる脱法行為が横行している中にあって、契約書の形式や当事者の認識にとらわれることなく、客観的事情から団体交渉による保護を及ぼす必要性と相当性があるかを検討することを明確にした点で非常に高く評価できます。
近時、労働組合に対する相談には、会社から業務委託契約等、労働契約ではない形式の契約書を押し付けられたり、いつの間にか個人請負の形に切り替えられたりして、時間外手当が支払われなかったり、雇用保険や社会保険にも加入させてもらなかったりするケースが増加しています。
このような場合、労働組合に結集して団体交渉で待遇の改善をはかることが有効ですが、本件のように労働者ではないとして団体交渉を拒否する経営者が後を絶ちません。本命令はこうした状況の中で、脱法を試みる経営者に対して警告を発するものとなっていると同時に、不当な地位にある事業者(労働者)が組合加入権や団体交渉権を使って会社と交渉し解決する希望を与えるものとなっています。