事件紹介
福島原発の訴訟が大詰めを迎えています
弁護士の笹山尚人です。
福島原発被害弁護団に所属しています。
福島第一原発事故被害とそれに対する訴訟の取り組み
2011年3月に発生した東日本大震災に伴い発生した福島第一原発の過酷事故によって、福島県浜通り地域の住民を中心に、多くの住民が避難を余儀なくされ、帰宅ができないままの過酷な避難生活が継続しています。また福島県を中心とした多数の住民が、避難を選択しなかった場合でも、放射性物質の影響が判然としないまま、従来の生活を継続してよいのかについて深刻な懸念を抱えています。
こうした福島第一原発事故によってもたらされた様々な被害に対しては、全国で、国や東京電力株式会社に対する損害賠償請求等の訴訟が提訴されています。
福島の被害現場はいま、どうなっているか
私は、2016年9月30日、担当する避難者訴訟における検証手続で、福島第一原発がある福島県双葉町に入りました。検証とは、裁判官が物体の形状等を直接に知覚・認識し、その結果を証拠資料とする手続です(民事訴訟法232条以下)。要するに、事件の現場に行って、発生した被害について五感でじかに感じてもらい、それをも判断資料にしてもらう手続きです。
福島県双葉町は、現在も帰還困難区域です。高い放射線の影響があります。国は、現在年間20ミリマイクロシーベルトの放射線を対外被ばくすることを危険の基準としています。1日あたりにすると、3.8マイクロシーベルト以上の被ばくが危険水域です。
私はこの日、約2時間の滞在で3マイクロシーベルトの被ばくをしました。
到底、この地域で毎日生活することができないことがわかります。
ここでの被ばくを避けるために、帰還困難区域に入るためには、写真のような防護措置をすることが必要です。
今回は、双葉町で養蜂業を営んでいたOさんのお宅と養蜂施設、それから双葉南小学校を検証しました。
自宅内は、事故当時のまま。地震のために家財が倒れ、物が散乱した後、Oさんたちは直ちに避難することになりました。そのまま長期間自宅に戻ることができず、自宅は放置されたまま。その期間内に、泥棒や動物の侵入が繰り返され、自宅は荒れ放題になってしまったのです。
養蜂場は、かつての養蜂用の籠が放置され、雑草が生い茂った状態。
双葉南小学校は、廃墟と化してシーンとしていました。かつては、子どもたちの元気な声が響き渡ったのでしょう。弁護団は、かつて双葉南小学校とその子どもたちが、地域の行事を担うなどして、また子どもたちが地域ぐるみで大切に育てられていた様子を写真を使って説明しながら、現状との対比を示して、裁判官に理解してもらうための説明をしました。
福島第一原発事故に対する賠償訴訟
自宅を、暮らしを、ふるさとを、こんなふうにメチャクチャにしてしまったのは誰だ。
元の暮らしを、生業を、返せ。苦しめたことには、完全な賠償を。
こんな思いで、福島原発事故被害の裁判は、全国で取り組まれています。
避難によって全国に散らばる原告たちのうち約1万人は、「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」を結成し、損害賠償請求等訴訟を担当する弁護団も、弁護団全国連絡会議を結成して、相互の情報交換や訴訟体制の相互支援活動を行っています。
当事務所でも、私と岸朋弘弁護士、川口智也弁護士が福島地裁いわき支部で行われている「避難者訴訟」「いわき市民訴訟」に取り組んでおり、また、青龍美和子弁護士が、福島地裁で行われている「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(「生業訴訟」といいます。)に取り組んでいます。
これらの訴訟では、訴訟ごとに差異はありますが、多くの場合、被害者たちが受けた自宅や避難や元の生活形態や環境を失ったことに関する経済的損失や精神的苦痛に対する賠償、避難しない生活での放射性物質の影響による精神的苦痛に対する賠償、放射性物質の影響を被った地域の原状回復を求めるものとなっています。
賠償請求訴訟は大詰めに
これらの裁判は、2017年、大きな山場を迎えます。
全国で取り組まれている訴訟のうち、群馬訴訟が3月17日に判決を迎えます。千葉訴訟が1月31日に結審。そして、当事務所の青龍弁護士が参加する「生業訴訟」が3月21日に結審。千葉と生業は、2017年中の判決が見込まれます。
これらの裁判での判決の動向は、私が担当している避難者訴訟、いわき市民訴訟を含め、後から判決を迎える裁判に大きな影響を与えるものといえます。
このように、裁判は大詰めを迎えつつあるのです。
ぜひ多くの皆さんに関心を持っていただき、ご支援をお願いしたいと考えています。
事務所では、「生業訴訟」が裁判所に提出する公正な判決を求める署名について、みなさまのご協力をお願いしております。
ぜひともご協力を、お願いいたします。作成後は、事務所あてにお送りいただけますと幸いです。署名用紙は以下からダウンロードできます。