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【労働規制緩和に反対しています!】
① 国家戦略特区法案にひそむ労働法の規制緩和の問題点

11月27日
弁護士 笹山 尚人

■国家戦略特区法案の問題点

  • この法案は、現在、臨時国会で審議中で、今国会中の成立が目指されています。
  • この法案は、労働法の規制緩和が目論まれ、憲法の定める労働者の勤労に関する権利、法の下の平等の点からも問題があります。
  • この法案は、労働法の改正を経ずして、特区の中で解雇をしやすくする「えこひいき」を認めるものになりかねません。
  • この法案は、せっかく今年始まったばかりの「有期労働契約の無期転換請求権」を使わせないようにしていくもので、この点でも大きな問題があります。

詳しくは、以下をご覧ください。

  • 国家戦略特別区域法案が、現在開催されている臨時国会に提出されて審議されています。
  • この中に、労働法の規制緩和として見過ごすことのできない内容が含まれているのです。

■当初の構想
国家戦略特別区域(「特区」)の構想は、規制緩和の「実験場」として突破口を開くことを目的とするものです。
その内容の一つに、法律で「労働法の例外」を定める「特別地域」を指定し、この地域内では労働法の規制外をつくるというものがあります。
地域は、東京、大阪、名古屋を想定。
主な内容は、
 ① 契約で解雇条項と定めた場合に、これが裁判規範になる
 ② 労働時間法制の規制緩和(ホワイトカラーエグゼンプション)
 ③ 有期労働契約に関する無期転換請求権について、特区内では事前放棄を認める
というものです。

■新たな「検討方針」
当初この構想は、厚生労働省も難色を示し、日本労働弁護団などの反対もあって、上記内容を実現する法案化はできませんでした。
しかし政府は、2013年10月18日付で、「国家戦略特区における規制改革事項等の検討方針」を定め、次の内容を臨時国会提出の特区関連法案の中に盛り込むことにしました。

  • 「雇用条件の明確化」
    • 「雇用労働相談センター(仮称)」の設置
    • 「雇用ガイドライン」(裁判例の分析・類型化)の作成活用、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上を図る。
    • 特区毎にセンターを置き、企業からの要請に応じて具体的事例に則した相談、助言サービスを事前段階から実施。
  • 有期雇用の特例
    • 「高度な専門的知識等を有している者で、比較的高収入を得ている者」などを対象に、無期転換申込権発生までの期間のあり方等について、全国規模の規制改革として労政審で検討を早急に行い、その結果を踏まえ来年通常国会に法案を提出する。

■国家戦略特区法案に「検討方針」が反映
現在、国会に提出されている国家戦略特区法案では、上記Ⅰに沿って、「紛争未然防止のための事業主への援助」として、情報提供、相談、助言等を行うセンターを設け、そのセンターの活動がガイドラインに基づいて行われなければならない、とされています。当該指針は、「国家戦略特別区域諮問会議の意見を聴いて作成されるもの」とされています。
また、上記Ⅱに沿って、「高度な専門的知識等を有している者で、比較的高収入を得ている者」などを対象に、全国で実施することを前提に、無期転換申込権発生までの期間のあり方等についての特例措置を設けることについて政府が検討をする、労政審の意見を聴いて、来年通常国会に法案を提出することも法案に盛り込まれています。

■憲法上も問題あり
日本国憲法は、全ての国民に保障される人権として、勤労権を定めています。
日本国憲法第27条1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」とし、第2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」としています。
さらに日本国憲法は、第14条で「すべて国民は、法の下に平等であ」る、と定めてもいます。
つまり、私たちは、どこに住んでいるとか、本社がどこにある会社に勤めているとか、そのような事情に左右されず、一律に保障された権利を有しているのです。
特区構想は、ある地域にいる人とそうでない人との間で、労働法の規制に違いを設けています。これは、憲法の定める「勤労権」、「法の下の平等」の観点からも許されません。

■労働法の規制緩和が行われる
Ⅰについて、特区法案にある内容は、要するに、まず厚生労働省に判例を分析させて指針案を作成させ、その案に国家戦略特別区域諮問会議(以下、「会議」といいます。)の意見を反映して、ガイドラインを作成しようというものです。この「会議」は、政府肝いりの組織です。法案の中に、会議のメンバーは、「内閣総理大臣が、国家戦略特区における産業の国際競争力の強化又は国際的な経済活動の拠点の形成に特に資すると認める特定事業を実施すると見込まれる者として、公募その他の政令で定める方法により選定した者で構成される」とあります。
規制改革会議のメンバーがそうであったように、規制緩和の推進論者ばかりで会議のメンバーを固めれば、例えば「国際競争にさらされているとき、社内に一致団結できない人がいるのは困る。会社の輪を乱すというものについて、判例が考えているよりゆるやかな解釈基準をたてるべきでは」といった議論になれば、それがガイドラインになりかねません。
つまり、特区法案は、実際上、法律を変えることなく、労働契約法第16条に定める解雇規制を緩和していく役割を果たしかねないものといえます。

また、Ⅱについては、有期契約の無期転換請求権について例外を設けること自体、労働契約法制度が獲得したものを後退させるものです。
平成25年4月に施行された改正労働契約法は、有期雇用の労働者の雇用を保障する観点からようやく制定されました。しかし、この法律を実際上活用できるようになるのは5年後の平成30年4月から。その活用以前に、その内容を使わせなくしてしまうのでは、せっかく定めた法律の意味がなくなってしまいます。

■広く検討を
既に国会審議の始まっている法案です。
ぜひ、広範な国民の討議をして、当否を論ずるべきだと考えます。

以 上




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