事件紹介
首都圏青年ユニオン・メンズカットリーダー事件、勝利和解(笹山尚人弁護士、青龍美和子弁護士)
笹山尚人弁護士と青龍美和子弁護士が首都圏青年ユニオンの顧問弁護団として担当した、東京地裁立川支部での「メンズカットリーダー事件」が、2018年2月5日、勝利和解で解決しました。
首都圏青年ユニオンの組合員の理容師に対して、使用者側から貸金請求訴訟を起こされ、逆に、未払残業代と、賃金から天引きされていた「保証金」の返還を求めた事案です。
詳しくはブログ(http://blog.livedoor.jp/tokyolaw/archives/1069604205.html)をご覧ください。
以下に声明を添付します。
理容室メンズカットリーダー裁判が勝利和解
2018年2月5日
首都圏青年ユニオン
首都圏青年ユニオン顧問弁護団
首都圏青年ユニオンとその顧問弁護団が取り組んだ、理容室メンズカットリーダー(東京都稲城市)との間の理容師の未払い賃金請求事件が、本日東京地方裁判所立川支部において勝利和解で解決した。
1. 事件概要
メンズカットリーダーで働く理容師は雇用契約書や給与明細書、タイムカードが存在せず、社会保険・雇用保険が未加入であった。給与からは寮費などに加えて積立金を強制的に天引きされており、手元に残るお金はごくわずかであった。給与は手渡し。賃金台帳や就業規則の策定など法律に基づく労務管理は一切されていなかった。またメンズカットリーダー経営者の山下氏は「東京の理容室で働ける」ことを謳い文句として、郷里である熊本や長崎の高校などに求人をかけていた。地方の高校に求人をかけることで社会常識や労働法の知識など不十分なままで働く場合が多く、搾取をしやすい対象に求人をかけていた。違法なメンズカットリーダーで働いていた男性理容師のSさんは退職時に未払いであった時間外割増賃金や深夜割増賃金の支払い、積立金の返還および社会保険・雇用保険の訴求加入を求めて、労働組合・首都圏青年ユニオンを通じて団体交渉を申し入れたところ、山下氏は「在職中に貸し付けていた貸付金182万円の返還を求める」という裁判を提起してきたため、2017年10月に反訴した。
Sさんは15年以上もの間メンズカットリーダーにいたが、毎朝8時半から深夜の23時半まで長時間働き、月に2回しか休みがなく、低賃金の上、積立金の違法な天引きのため給与の手取りはごく少額しかもらえなかった。高卒で地方から東京にやってきたSさんは時間とお金がない中、社会との接点をもつことができず、働き方のおかしさに気づくことができなかった。
まさに奴隷的拘束といえる働き方をしていたSさん。奪われた年月は取り戻せないが、せめて今後Sさんのような被害者が出ないように、また徒弟制的労務管理が残る理美容業界の改善のために、闘ってきた。
2. 和解内容
イ) 山下氏は、Sさんに対し、被告を就業させるにおいて本件請求にかかる事項をはじめとする法規違反があったことを認め、今後、仮に雇用主となることがあれば、雇用主として守るべき諸法規を遵守するよう努力する。
ロ) 山下氏は、Sさんに対し、本件和解金320万円の支払義務があることを認める。
ハ) Sさんは、山下氏に対し、本件貸金債務として金152万円の支払い義務があることを認める。
ニ) 山下氏及びSさんは、それぞれの自由な意思に基づき、ロのSさんの山下氏に対する債権とハの山下氏のSさんに対する債権とを対当額で相殺することを合意する。
ホ) 山下氏は、前項の相殺合意に基づき、Sさんに対し、ニの相殺によって残るロの債権の残額168万円を支払う
ヘ) 山下氏及びSさんは、今後、互いに相手を誹謗中傷したり、営業活動を妨害したりしない。
ト) 山下氏は、Sさんに対するその余の本訴請求を放棄する。
チ) Sさんは、山下氏に対するその余の反訴請求を放棄する。
リ) 山下氏及びSさんは、山下氏とSさんとの間には、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
3. 本和解の意義
本和解は、次の意義がある。
(1) 理美容業界は徒弟的制度の慣行が著しく、この観点から様々な労働基準法違反が認められる「ブラック企業」がはびこりやすい。本件でも奴隷的拘束、長時間労働、低賃金、賃金からの搾取といった実情が認められた。和解では、まずこれらの違法行為の存在を認めさせ、実質的な謝罪条項を獲得した。
(2) 時間外労働の実態を裁判所が認め、残業代の発生を認めさせた。「保証金」についても、被告が認める部分にとどまったが、これを返還させた。
(3) 山下氏は、秘密保持にこだわったが、これを認めず、広く今回の成果を伝えることができるようにした。
4. 首都圏青年ユニオンはこの勝利和解をより発展させるため、「理美容師ユニオン」を通じて理美容業界の労働環境改善にむけて活動を強化する。
理美容師ユニオンでは理美容業界で働く労働者の労働条件および労働環境の改善に取り組む。
理美容業界では離職率が非常に高い。1年目の離職率は約50パーセント、3年目の離職率は約70パーセントと他業種と比べても高く、本件のように、長時間労働が蔓延しており、営業後の練習・訓練なども含めると1日12時間労働など深夜にまで及ぶ労働が常態化している
また、労務管理が適切にされておらず、違法な状態で長時間労働を強いているケースが多い。有給休暇が支給されない、社会保険未加入などの労基法違反も多い。
理美容師ユニオンでは健康的で、安心して、将来のビジョンが描ける働き方を目指していく必要があると考え、理美容師の労働相談(03-5395-5359)を受け付けている。
裁判を闘ったSさんは証人尋問の最後に裁判官にむけて次のように発言している。「社会の常識を知らない子たちを言葉巧みにだますようにして、餌をちらつかせるように、マインドコントロールするかのように僕らを使うだけ使って、ましてや低賃金、長時間労働で働かせるブラック事業主が今後いなくなるように、僕らみたいな被害者が出ないように正当な裁判をお願いしたい。」と。
首都圏青年ユニオンならびに首都圏青年ユニオン顧問弁護団は、Sさんの告発および裁判の勝利和解と意義を大いに世の中全体が共有し、悪質な労務管理、そしてそれによる被害がなくなること、さらに、劣悪な労働条件・労働環境で働く理美容師たちがその抜本的改善のため、声を上げ、立ち上がることを願い、この声明を発するものである。